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新しい命は食べたものでつくられ、育まれる
脂肪酸にと妊活に関する研究論文を紹介します。
体外受精を受けている女性の卵子の脂肪酸組成を測定したところ、標準体重の女性の卵子と肥満女性の卵子では脂肪酸組成が異なり、肥満女性の卵子にはオメガ3系脂肪酸レベルが低く、それが、治療成績に影響しているかもいれないという研究報告がスペインの研究グループからなされています。
まずは、体外受精や顕微授精を受けている205名の女性患者の採卵後の未成熟のGV卵やM1卵、体外受精や顕微授精後に受精が成立しなかったM2卵、合わせて922個の卵子中の脂肪酸を測定し、BMIで標準(18.5以上25未満)、過体重(25以上30未満)、肥満(30以上)に分け、卵子の成熟ステージごとの脂肪酸組成をBMIのカテゴリーで比較しています。
脂肪酸というのは油の成分で、多くの種類があるのですが、脂肪酸によって、性質や働きが異なりので、その組成、すなわち、それぞれの脂肪酸の比率によって、組織の機能に影響が出てきます。
今回の研究で明らかになったのは、標準的な体重の女性と肥満の女性では、卵子中の脂肪酸組成が異なっていて、肥満女性の卵子には標準体重の女性に比べてオメガ3系脂肪酸の比率が低く、オメガ6系脂肪酸に対するオメガ3系脂肪酸の比率が低かったということです。
油はエネルギー源になるだけでなく、細胞膜の成分になったり、身体に一部分でホルモンの様な働きをする物質になったりします。
そのため、卵子中の脂肪酸の顔ぶれは、当然、卵子の質に影響を及ぼすというか、卵子を構成しているわけですから、卵子の質、そのものと言えるわけです。
肥満女性の卵子のオメガ3系脂肪酸比が低いことが、治療成績低下の一因になっているかもしれないと研究グループが指摘しています。
血液中や卵胞液中、すなわち、卵子の周囲の環境中の脂肪酸組成を測定し、オメガ3系脂肪酸の比率が高いほど、その後の良好な胚質や治療成績と関連したという研究報告が数多くなされています。
ところが、卵子の成育環境ではなく卵子そのものの脂肪酸組成を測定した研究は初めてです。
脂肪酸には色々種類があります
脂肪酸の分類 | 多く含まれる食品 | |||
一価不飽和脂肪酸 | オレイン酸、ミリストレイン酸、エイコセン酸 | オリーブ(オイル)、ピーナツ、ナッツの油、松の実 、ごま 、ピスタチオ 、落花生 、アーモンド 、カシューナッツ 、マカダミアナッツなどの種子、バター | ||
多価不飽和脂肪酸 | 必須脂肪酸 | オメガ3脂肪酸 | EPA(エイコサペンタエ酸)
DHA(ドコサヘキサエン酸) |
マグロや鮭、いわし、さば、はまち、さんま、ぶり、うなぎ などの脂肪性の魚類 |
αーリノレン酸 | しその実油・えごま油 | |||
オメガ6脂肪酸 | リノール酸 γーリノレン酸 アラキドン酸 |
植物油、特にコーン、大豆、サフランオイル、クルミ、 | ||
飽和脂肪酸 | 体内で合成できる脂肪酸 | ステアリン酸、パルミチン酸、アラキジン酸 | 肉、無調整の牛乳やクリーム、バター、ココナツやココナツ製品、ヤシ油、卵黄、チョコレート、パーム油 | |
トランス
脂肪酸 |
植物油を高温にする過程などで生成される脂肪酸
健康に対するマイナス面が報告されている |
マーガリン、ショートニング、加工油脂など |
オメガ3系脂肪酸やオメガ6系脂肪酸は、体内でつくることが出来ない多価不飽和脂肪酸と呼ばれています。
これらの多価不飽和脂肪酸は必須脂肪酸と呼ばれ食事から摂取するしかありません。
体内のオメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸の比率は、摂取した食事内容がそのまま数字に反映されます。
必須脂肪酸が不足・欠乏すると起こる症状は?
- 皮膚の乾燥、脱毛など
- 脂肪肝
- 免疫不全、血栓形成、血小板減小児の成長障害、脳の発達障害 など。
上記のような症状を発症するのには、数週間~数か月かかるといわれますが、BMI18以下の「やせ」、低体重では発症しやすいといわれています。
不妊や未妊のみならず、皮膚の乾燥や抜け毛、脱毛は必須脂肪酸の不足が原因かもしれません。
※BMIとは体格指数のこと「体重㎏÷身長m²」22は標準、18以下は低体重、25以上は肥満
理想の脂肪酸比率(SMP比)とは?
SMP比は食事から摂取する脂肪酸の比率です。
飽和脂肪酸(S = Saturated fatty acid)、一価不飽和脂肪酸(M = Monounsaturated fatty acid)、多価不飽和脂肪酸(P = Poly un-saturated fatty acid)の比率が3 :4 : 3であることが望ましいとされています。
日本人の食事は平均すると理想に近い脂肪酸バランスといわれていますが、食事の欧米化によって飽和脂肪酸の摂取量や健康志向によって多価不飽和脂肪酸の摂取量が多くなっています。
脂肪酸は種類さまざまな種類をバランス良く摂ることが大切です。
SMP比率は脂肪酸摂取の良い目安になります。
今から授かる我が子の健康を願うカップルはバランスよく食事を食べることが大切です
1日3食バランスよく食べ、それを継続することが大切です
今回の研究では、肥満女性の卵子には標準体重女性の卵子に比べてオメガ3系脂肪酸が少なかったのは、肥満女性と標準体重女性の食事内容の違いが影響していると思われます。
さらに卵子や精子、受精卵、胚、胎児が成育する環境も、両親(母親になる女性と父親になる男性)が食べたもので形成されています。
1日3食とも主食、主菜、副菜、果物を、適切な量を食べ、それを継続することが大切です。
毎食、なにをどれだけ食べるか、栄養素の過不足について、神経質にこだわる必要はありません。
1日30品目の食材を目標に食べる事を心がけると自然にバランスが取れてきます。
オメガ3系脂肪酸の摂取には、1 日 1 回は魚を食べると良いでしょう。
(1日の中で1食材1カウントです。三食同じ食材が出てきたとしても3ではなく1カウントに数えます)
(参考文献)
1)Fertil Steril 2020; 113: 53